中長期的な投資学

中長期投資家による分析や銘柄研究

日本の国力は落ちたのに、円がリスク回避で買われる本当の理由

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僕は株をやっていますが、為替はやっていません。

 

為替は、株以上に予測しにくく、ギャンブル性が高いからです。

 

しかし、株をやると為替というものは、どうしても無視ができません。日本の場合、たいてい円安になると株価が上がり、円高になると株価が下がるからです。

 

ところで、円が高くなるときというのは、基本的には世界経済に何か不安定なことが起きたときです。

 

例えば、ギリシャ危機のときは、円が買われて円高になりましたね。日本はこれが長期的に続いてしまい、日本の輸出企業の衰退と民主党政権に対する失望を国民に深く植えつけました。

 

と、同時にこうも思ったのではないでしょうか。

 

日本は別に国力が上がったわけでもないのに、円が買われるのはおかしい

 

僕もそう思いましたし、今も思っています。今は1ドル100円台ですが、もっと円安になってもおかしくないと思っています。

 

しかし、ある日たまたま買った投資向けの本を読むと、日本の国力が落ちているのに、円が買われる、この理不尽な仕組みが分かってきました。(厳密に言えば、為替は詳しくないので、ちょっとわかってきた程度ですが。)

 

だから、為替について本に書かれていたことを少し引用してみたいと思います。

 

為替相場が国力を反映するという考え方は、多くの人にとって当然のことのように思われている。為替の専門家の評論でも、このような考え方が強くみられるときがある。代表的なものは「日本は国力が衰退しているのだから、円安になるのは当然だ」という論調だ。なぜ、通貨の価値は、国力と結び付けられやすいのだろうか。

 

そこで、筆者は国力と通貨の関係について論じます。その前に、筆者は「国力」というあいまいな概念にもメスを入れます。

 

ところで、ここでいう国力とは何を指しているのだろうか。国力が意味するものにはいろいろとあるが、軍事力だろうか。

 

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しかし、軍事力と国力は無関係であると論じます。

 

米国は第2次世界大戦後、一貫して軍事大国であり、とくに1980年代後半には冷戦の勝利によって圧倒的な軍事的覇権を確立した。しかし、ドルはそうした軍事的国力の推移とは無関係にほぼ一貫して価値を下げている。冷戦の勝利後も、やはりドルは大幅に下がった。

一方の日本の軍事力は決してレベルの低いものではないとはいえ、限定的なものであり、軍事的覇権とはほぼ無縁である。しかし、円の価値はほぼ一貫して上昇している。

 

では、この「国力」というのは、「経済力」のことなのでしょうか。

 

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しかし、それも違うと筆者は述べています。

 

米国

米国は1990年代に、何度目かの繁栄期を迎えた。この時代に進展したIT革命、金融技術革命、そしてグローバリゼーションという大きな波を主導したのが米国であり、経済規模はもちろん、成長率という点でも、低迷が続いた日本を大きく凌駕した。だが、やはりドルがそれに見合った動きをしているようには見えない。

 

日本

経済的繁栄を誇った1980年代までの期間、円の価値は大きく上昇している。これだけ見ると、経済的成功によって円高になっているようにも見える。だが、1990年代以降の低迷期においても円は高くなり続けた。

 

中国

近年大躍進を遂げ、米国に次ぐ世界第2位の規模にまで成長した中国の人民元の価値はどうだろうか。(人民元のレートは)1990年代以降一進一退の動きをしているが、世界第2位の経済大国への躍進とか、年率10%に近い高成長を反映した動きにはとても見えない。また、現在の中国は30年前の中国とは比べ物にならない大国だが、為替レートは30年前よりもずいぶんと安いままだ。

 

このように、国力をどのように定義しても、為替相場と国力の結びつきは見えてこない。

 

さらに、国が破たんすると、通常その国の通貨が安くなることが知られています。これも一見国力と通貨が関係していると見られますが、それも違うと言っています。

 

財政破たんがなぜ通貨安に結びつくのかというと、それは財政破たんが通常、激しいインフレを招くからだ。インフレは、モノに対する通貨の価値が下がることを意味する。そのため、インフレが予想される通貨は、モノに対する価値が下がらない他の通貨に対しても価値を下げ、売られることになる。ここでも、国力というあいまいな概念を持ち出さずに通貨安が起きる理由を説明することができるのである。

 

そのあと、筆者は円を代表する「安全通貨」という概念にも疑問を呈していきます。

 

もう1つ、とくに近年によくみられるようになった為替にまつわる誤解を取り上げよう。「円=安全通貨」説だ。為替相場の動きを解説する際に、このロジックは頻繁に使われている。

「投資家にリスクオフの姿勢が強まったので、安全通貨である円が買われた」など。

 

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この「安全通貨」云々の説明ほど不思議なものはない。私は、正直こうした説明が何を言おうとしているのか理解することができない。こうした説明が広く通用していることも謎である。為替のプロといわれる人たちですらこうした言い方をすることがしばしばあることには、驚きすら感じる。

 

そこで、筆者は円がそんな安全でもないことを主張します。

 

まず、ここで言う「安全通貨」とは何を意味するのか。そして、なぜ円が安全通貨なのか。一般に「安全」というのはリスクが小さいことを指すが、円は主要通貨の中でも比較的値動きが大きい、つまりリスクの高い通貨である。

 

国力が安定していて、財政の健全性が高いことを安全と呼んでいるのだろうか。円は安全通貨、という言い方はリーマンショック後に欧米の財政事情が悪化したころから言われ始めたものであることからすると、どうもこの意味合いで使われていることが多いのではないかと推測される。だが、日本の国力は、急速に低下しているわけではないという点では確かに安定しているといえるかもしれないが、決して趨勢的に上向きというわけでもない。

 

要するに、「安全通貨だから」円が買われるとか、売られるという説明は意味が不明なのである。

 

しかし、実際、株の取引をしていると確かに株価が下落するときは同時に円高になることが多いのです。

 

こちらはアメリカ株の値動きです。

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そして、こちらは円の値動きです。

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まったく一緒とは言えませんが、非常によく似ていますね。

 

だから、株価が下がると円高になり、株価が上がると円安になるのは紛れもない事実なのです。

 

では、なぜこんなことが起きるのでしょうか。

 

ここで登場するのがキャリートレードである。キャリートレードとは、円のような低金利の通貨で資金を調達し、それを為替市場で他の通貨に交換し、その通貨の株や債券に投資することを指す。

 

キャリートレードはちょっと詳しく説明しても分けわからないから、割愛します。そういういものがあると思ってください。

 

こうした投資を行っている場合、投資した国の債権や株の市場が変調をきたすとどうなるかというと、これらのポジションを巻き戻すので、それに伴って売られていた円が買い戻されるのである。

 

つまり、たとえば中国バブルの崩壊みたいに株でやばいことが起きると、キャリートレードをしたせいで、円が買い戻され、円高になるのです。

 

もっともキャリートレード主犯説にも疑問は湧く。為替相場がそれによって動くほど猫も杓子も円キャリートレードを行っているのだろうか。現実は少し異なっている。

 

そのあと、筆者が主張することを僕なりに単純にまとめると。

 

投資家「お。株が暴落したぞ。

 

投資家「お。そういえばキャリートレードしてるんだよな。

 

投資家「お。ということは、円高になるんだよな。

 

投資家「お。ということは、俺、円買えば儲からね?

 

投資家「よっしゃ。円買うぞ。

 

→結果、想定以上の円高になる。

 

要は、キャリートレードをまったくしていない投資家も、株が暴落すると、円高になると予想して円を買うので、結果本当に円高になってしまうという、アホみたいなことがあるわけです。

 

よって、円高の原因はキャリートレードだと分かりました。

 

では、なぜ「円=安全通貨」という概念が生まれたのでしょうか。

 

それは「有事のドル買い」だ。かつて、世界で何かが起きるとドルが反射的に買われた。それが「有事のドル買い」である。この現象は、リスクが高まったときに、世界の基軸通貨であり、世界で最も安全な通貨であるドルに買いが集まると説明されてきた。現在では、この有事のドル買いは見られず、有事の円買いにとってかわられている。この連想で、「ドルはもはや世界で最も安全な通貨ではない。有事に買われる円こそが世界の安全通貨である」という発想につながったのではないかと思う。

 

ただし、現実の円高の原因はキャリートレードなので、円が安全通貨というのはやっぱり間違いなんだと思いますね。

 

こちらの本から引用しました。

 

投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について

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